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「ねえ。小石川さん。ちょっといいかしら?」
課長との秘密を愉しんだ翌日。
出勤するや否や、民野課長の直属の部下である下河内主任が、私を給湯室に引き込んだ。
これから出勤してくる他の人に気付かれないためなのか、電気は付けず薄暗いままの給湯室で、腕を組んで私を睨め付ける下河内主任と対峙する。
下河内主任は私より年下だが、ヒラの私と違って主任。でも同じ独身アラフォー。
何より民野課長の熱心なファンであることを事あるごとにアピールする、めんどくさい存在だ。
関わると面倒なので、仕事でも最低限のことしか会話をせず、こんな風に仕事外で話をしたことは、ほとんどなかったはずだ。
「なんでしょう?」
私はめんどくさそうな顔を隠すそうともせず、ぶっきらぼうに振る舞う。
「ねえ。昨日、私見ちゃったんだ」
「な、な、何を…ですか?」
「隠したって無駄よ。私昨日貴女たちを尾行してたのよ」
「貴女“たち”って…」
「それ私に言わす?」
私に冷たい視線を送る下河内主任。
流石、“氷の女”と恐れられるだけはある。
本人はその二つ名をいたく気に入っているらしいのだが、額が広くて目がぱっちりと大きく、キツイ顔をしているので、某大ヒットアニメ映画の主人公になぞらえてそう呼ばれていることは、本人は知らないらしい。
「ねえ。私も仲間に入れてよ」
「はぁっ?」
いつまで続くのかとも思われた二人の睨み合いは、下河内主任の突然の提案で終わりを告げた。
な、何言ってるんだ、この人。
さ、ささ三人でって、こと?
何考えてるんだ。
私が唖然としていると、突然給湯室の明かりが付けられ、低音のイケボが割り込んできた。
「オレは構わんが」
「課長…っ!」
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