1人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあ、何で警察に言わなかったんですか? あのまま俺も警察に突き出せばよかったのに」
”人の幸せを奪う人間を私は許さない!”
そう言って、犯人に立ち向かう探偵少女の背中が瞼の裏にこびりついて離れない。
彼女は正義を全うする人間。
ならば、犯罪を犯した自分は断罪されるべき人間だ。
まっすぐと探偵少女を見つめると、彼女はクッと笑い声を立てた。
「面白いことを聞くね。……君は、犯人にナイフを突き立てられた私を助けてくれた恩人じゃん。借りは作らず即返すのが私流なんだ」
探偵少女は清々しさを覚えるほどきっぱりと言い切った。
確かに、少年は逆上した犯人が隠し持っていたサバイバルナイフを探偵少女目掛けて突き立てようと突進したときに、近くにあったテーブルクロスを引っ張り、テーブルに乗っていたパンや食器を犯人に叩きつけて怯ませたが、それだけだ。
一瞬の隙ができた犯人を、探偵少女は丸テーブルの足を掴み大きく振り上げて、何度も、何度も、それこそ犯人が昏倒するまで殴り続けていた。
庇ったわけでも、犯人を倒したわけでもないというのにーー
(滅茶苦茶だ、……けど)
彼女は”自分”を持っている 。
盗みを働いて、臆病な自尊心を満たしている自分とは大違いだ。
少年はズボンに入っている100円の盤面をなぞった。
ここ1ヶ月内で1番の高額であり、探偵少女から盗んだ100円だ。
彼女はこれがあったからパンを買えず嘆いていたけど、今は人から感謝されパンを貰って笑っている。
少年はフッと笑みを零し、探偵少女の横に並んだ。
「名前、聞いてもいいですか?」
「お、ナンパかい?」
茶化す風に聞く探偵少女に、少年は意地悪な笑みを返した。
「はい、俺は貴女を気に入りました。だから、貴女に付いていきたいんです」
「ストーカー発言! 悪いけど、私以上に可愛い子はたくさんいるから、そっちにしておいて。なんなら私の同級生を紹介するよ?」
「いえいえ、俺は貴女の側にいたいんです。恋人が欲しい訳じゃありません」
探偵少女は「なんだ、それ?」と言わんばかりに露骨に嫌な顔をする。
理解されなくていい。
だって、これは自分の罪の贖罪だからーー。
「付いていきますよ、探偵さん」
END
最初のコメントを投稿しよう!