カビ

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あまりにも異常な状況に、Dさんはすぐにアパートから逃げ出した。 どれくらい走ったのか分からないが、気がつくと大通りの交差点まで来ていた。震える指先でスマートフォンを操作し、兄の携帯に電話をかけた。 何度目かのコールのあと、「どうした?」という声とともに繋がった。 Dさんは混乱する頭をなんとか整理しながら、今しがた起きた出来事を捲くし立てる。 しかし相手から返ってきた反応に、Dさんは凍りつく。 俺。東京なんて行ってないけど。 え? 自分の耳を疑った。そんなはずはない。現に、さっきまで二人で酒を飲んでいたじゃないか。 そう抗議すると、「実家でテレビを観ている最中だし、第一地元を離れる予定もない」と逆に怒られたという。 Dさんは青ざめながら、たった今自分が逃げてきた方向に目をやる。 あれはなんだったのか。 あのときスマートフォンのライトを当てなかったら、自分は何をされていたのだろうか。 その人物の家族や友人に化けて、あの部屋に引きずり込む獲物を待っているのだろうか。 そのアパートは、今も都内のどこかにあるという。
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