カビ

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そして気づけば夜も遅い時間になり、そろそろ寝ようということで、Dさんはソファーで横になった。 電気が消され、部屋が真っ暗になった。 少し離れたところで、兄が布団を敷いて横になっている。 時計の針が進む音だけが、狭い部屋に響く。 こうして隣り合わせで眠るなんて、子供時代に戻ったみたいだな、とDさんはつい昔を懐かしんだ。 そして真っ暗闇な天井を眺めながら、兄に改めて尋ねてみたという。 「ねえ、なんで東京に来ることになったの? 地元から離れるつもりないって昔から言ってたじ ゃん」 「お前に、会うためだよ」 まだ酔いが冷めていないのか、柄にもないことを言う。 「でも、兄貴まで家出たら、母さんと父さん、寂しいだろうな。反対されなかった?」 「ああ」 暗がりから、返事がくる。 「でも、口には出さないだけだと思うな。・・・・・・そうだ、来月の母さんの誕生日、二人で何かプレゼントでも贈ろうよ」 「そうだな」 「花束包んでさ。きっと喜ぶと思うよ」 「そうだな」 「メッセージカードなんかも添えてみるのもいいよね」 「そうだなあああああああ」 喉を潰したような声が、隣から返ってきた。 Dさんは一瞬、身をかたくした。 なんだいまのは。 「兄ちゃん?」     
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