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「何やってるの!」
バタバタと走ってきた母さんが掴みあったままの私とユウヒを離す。
お互いに掴み合ったから、服の襟や袖は伸びていて、髪はぐちゃぐちゃ。
きっと、知らない人が見たらビックリしてしまう。
でも母さんは私たちのそんな喧嘩は慣れたもので、顔をしかめて大きくため息をついて、怒る。
「ゲームで喧嘩しない、仲良くやりなさい!」
「だって、ユウヒが代ってくれないんだもん」
私は母さんに訴える。私だって手を出したけど、先に手を出したのはユウヒだし、その原因だって何度も代わってと言っても代わってくれなかったせいだと。私は、待ってた。
そう言うと母さんは深くため息をついて、ユウヒと目線を合わせる。
「ゲームやり過ぎはダメ、ちゃんと順番にやる約束でしょ?カッとなって手を出すのは絶対ダメ、分かるよね?」
母さんが言えばユウヒはしょげた様に目線を下げて、はーい、と返事をした。
私は知ってる。全然反省なんてしてない。
でも母さんはそれに満足して、今度は私のところに来て、同じように目線を合わせる。
「ユウヒが悪いけど、ヒヨリも手出しちゃダメでしょ?女の子が乱暴しちゃダメ」
「……うん」
母さんはぐちゃぐちゃになった私の髪を指で梳いて、整えてくれる。
この手は好き。母さんの手は温かくて、優しい。
でも、
「それに、ヒヨリはお姉ちゃんなんだから」
この言葉は大っ嫌いだ。
「ごめんね」
ぎゅっと握りしめた拳を母さんに見られないように体の後ろに隠して、ユウヒに謝るとユウヒも小さい声で俺もごめんと言った。
グッと胸が締め付けられるみたいに苦しくなる。
なんで、私、先に謝ってるんだろう。
ユウヒが交代してくれないのが原因だったのに。
「ねえ、ヒヨリ、これから一緒にご飯作るの手伝ってくれる?今日はカレーだからヒヨリ、カレー得意でしょ?」
母さんは暗に今日はゲームをユウヒに譲れと言っている。そんな風に言わなくったっていいのに。
「いいよ、私野菜切るの上手くなったんだ」
私は放り投げていたコントローラーを拾ってユウヒに渡す。ほら、今日も私の負け。
「髪、引っ張ってごめん」
「いいよ、私も手出してごめんね」
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