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「同じようなものですよ」
女はモップがけに戻りました。
おれもでかいケツの女に生まれたかった。じぶんが男であることにさほど文句はないのですが、そうしたら、ペニスでピアノを弾かずともよかった。
「クララっていうんです」
「はい?」
女のまるっこい指は水槽を指していました。おれがナマズを見ていたと思ったのでしょう。まあ、ナマズもケツも似たようなものです。
「あたしはよく知らないんですけど、こういうナマズは熱帯魚屋でクララって呼ばれてるんだって。学名がそうなんだったかな」
ぴんとしたひげが立派なナマズです。クララ。クララが立った。クララのばか。
おれのペニスにひげが生えていたならば、ひげで黒鍵をたたくことができ、ねこふんじゃったを弾けたでしょうか。ナマズの白くてぬるっと長い身体はペニスよりむしろ、フランスパンに似ていた。バインミーの。
「店長がこういうの好きでいろいろ飼ってるの。あっちの店にはアロワナがいるんだけど、いっしょにはできないから分けてて……」
ハワイではちょくちょくナマズを食いました。だいたい天ぷらで、揚げてしまえば特徴のない白身魚でした。もちろんこのクララとはべつの種類のナマズでしょう。
母親は、あまり日本語がうまくありません。顔は日本人と変わりないから外出のたび苦労します。いまだに。いっぽうおれは実家を出てから英語をしゃべる機会が減り、もしかしたら少しずつ忘れていっているのかもしれない。おたがいもっと歳をとったら会話は困難になるでしょうか。おれは自分を日本人と呼びたくないときがある。
女が言いました。
「このクララ、店長がそこの川で釣ったやつなんです。アロワナもそう」
「このへんにそんなのいる?」
「飼えなくなったひとが捨てちゃうみたい。下水であったかいから熱帯魚も生きていけるんだって。あそこはもうアマゾン川なんですよ」
なるほど、川はヒーターのついた水槽になって、さまざまないきものを住まわせている。おれもそうか? ピラルクもいるか?
「それ、いま汚したやつですか。コーヒー?」
女がおれの服を見て言いました。
「シミ抜き、その場で落とせるサービスもやってますよ」
コーヒーの缶を持っていたからわかったのでしょう。おれはずいぶんまぬけな見た目らしい。五分ぐらいで済むと女は言いました。
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