好みの香り

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アリス。 黒板にそう書かれた名前。 竹本爽太は、イギリスから転校して来た美少女『アリス』に目が釘付けだった。 外国人らしい整った目鼻立ちに、キレイな金色の髪。同じ10歳とは思えないどこか大人っぽい雰囲気に、爽太を含めた4年1組の全員がその容姿をだまって見つめていた。 「じゃあアリスちゃん、竹本爽太(たけもとそうた)くんの隣の席に座ってくれるかしら」  担任の藤井教諭はアリスに声をかけた。アリスは藤井教諭にスッと顔を向ける。どこか不思議そうな顔。すると藤井教諭は微笑みながら正面を向き、声を張った。 「竹本爽太くん」 「えっ!? はっ、はい!?」  ガタッ!  国語の授業で読みを当てられた時みたいに思わず立ち上がってしまった。しかも大きな返事をして。  クスクスクス。  周りから聞こえる笑い声に、爽太はハッとする。  慌てて周りを見ると、クラスの全員が爽太を見て笑いを必死に堪えていた。  爽太は顔を真っ赤にしながらも、クラスの全員にキッと鋭い視線を送りつける。皆、まずいとばかりにそそくさと前を向く。  爽太の視線もそれにつられて前を向くと、そこにはアリスのニコッとした可愛い顔があった。  爽太の胸が高鳴る。  アリ スが爽太の方に向かって、席と席の間を歩いてくる。  水色のワンピースに白の薄いカーディガンを羽織り、頭には黒のリボンが飾られたその姿に、不思議の国に迷い込んだ少女を重ねてしまう。誤って本から飛び出し、日本の小学校に迷い込んでしまったかのようだった。 冒険を楽しむかのような軽い足取りで、アリスは爽太の隣の席に辿り着いた。
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