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山道である。もう暗くなっている。車は、カーブを繰り返してから、直線に入り、またカーブの繰り返しに入った。いのししに注意、と書かれた看板は、闇に隠れてまったく見えないが、ハンドルを握るゴロウは、いのししに注意しながら運転している。いのしし注意という看板があることは、知っている。地元だから。
「うん。減ってるよ。わりと」
とタカシがお腹を押さえながら言った。タカシは後部座席・右。
後部座席・左がトモコで、
「私も。てか、ぺこぺこ」
と言った。
「じゃあ寄ろうか。レストランあったよね、この辺に」
ゴロウはいのししに限らず前方のすべてに注意を払いながらも、助手席のエツオにたずねる。
「あったかな。ああ、あったかも」
四人を乗せた車はまた直線に入る。
そのとき、前方で、すっと生き物が通った。ヘッドライトの届くか届かぬかのかなり遠方の空中を通りすぎたあれはおそらく、むささびだ、とゴロウは気づく。むささびは、手を広げると自分全体がティーシャツみたいになるから滑空することができる。むささびはかなり珍しいが、かなり珍しいといってもこのあたりに住んでさえいれば年に一回は目にすることになる、っていう、その程度の珍度だし、とくにゴロウは報告しなかった。ゴロウもゴロウで空腹だったということでもある。
そのうちにレストランの明かりが見えてくる。ハンバーグでも注文しようかなとゴロウは考えていた。
ハンドルを切って、レストランの駐車場に入っていく。
がらがらだからではなく、むしろ外から見えるガラス張り窓ぎわ席だけでも何組か入っているのが知れるが、駐車場が広すぎるおかげでらくらくと、運転免許取りたてのゴロウにはありがたいことに寝返りをうつみたいな感覚で駐車することができた。というか、今さっきむささびをティーシャツにたとえたところなのに、直喩が多くてウザいかもしれないが、これはゴロウの内面であって、ゴロウは悪気なくそういう内面を持っていて、何かと何かが似ていると思いがち、ということなのだ。たぶん。
それと、本当に、この駐車は、それぐらい鮮烈に簡単だったということでもある。というのもゴロウは教習所時代にバック駐車で複数回失敗していて教習所に損害を与えており、賠償金を求められたりはしなかったが、とにかく広々とした駐車場がかなり好きだった。
「あっ」
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