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「あっ」  と、トモコが声を出す。 「うん? 何?」 「あー、いや、レストランって、ここか」 「何。だめなの? ここ」 「いやだめっていうか、全然いいよ。ちょっと一個、エピソード思い出しただけ。ここの」 「何?」 「お姉ちゃんから聞いた話なんだけど」 「うん。ていうか、とりあえず降りよう」  ゴロウは財布とキーだけを持って、降りる。トモコもエツオもタカシも降りてくる。  ゴロウは伸びをする。 「で?」 「お姉ちゃんの友達が、実際に体験したっていうんだけど」 「ふんふん」 「このレストラン、入ったんだって、友達同士、四人で。何年か前に」 「ふんふん。四人。同じだね」 「店入って、テーブル座ったら、お水が五つ、運ばれてきたらしいの。四人しかいないのに」 「ふんふん」 「特に気にせず食事を終えて、店を出て、車に乗り込んで、走り出した。ったら、そこにトンネルあるでしょ、ちょっと行ったところに」  全員がそちらに目をむけた。ずっと先。森の濃い闇のなかに、トンネルの電燈が光っている。 「あるね」 「あそこのトンネルを抜けた瞬間、車の中、どうなってたと思う?」 「はあ? どうなってたの?」 「五人になってたの」「あー、はいはい。一人増えてたのね」 「そう」 「作り話ね」 「……たぶん」 「嫌いじゃないよ、そういう話。とりあえずおなかすいたな」  ゴロウ、トモコ、エツオ、タカシ、着席している。メニューを広げて、選んでいる。ハンバーグにしようかと思っていたゴロウはそのチャーハンの写真を見て少し迷った。  ウェイターが水を運んできた。盆に載っているコップの数は、五つだった。人数より一つ多い個数を運んできたという、その間違いに気付くことなく五つのコップをテーブルに置いた。 「あれ?」  ゴロウが言った。 「一つ、多いです」  ウェイターは申し訳なさそうに、 「あ、四名様でしたか?」 「そうですよ」  ウェイターはしかしエントランスのほうにちらと目をやる。一人帰ったのかな? とでも言わんばかりの仕草である。自らの非を認めていない、と、いえなくもないが、本当に不思議そうにしているからゴロウたちはとくに何も言わなかった。 「失礼しました」  コップを一つ、盆に回収する。 「ご注文決まりましたらそちらのボタンお押しください」  と言ってから、盆を運び去った。五つ目のコップを載せた盆を。
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