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ところがよく見るとそうではなく、助手席に座っていたはずのエツオが、いなくなっている。いなくなっているだけでなく、そこにも新たに青年が現れている。
すなわち構成が、
【ゴロウ・エツオ・タカシ・トモコ】
という四人から、エツオが消えて、
【ゴロウ・タカシ・トモコ・青年A・青年B】
という五人になっていた。
ゴロウはこれについて何とコメントすればいいのか分からないし、それに運転中だし、誰かが口を開くのを待っていた。しかし誰も口を開かないまま、だいぶ長い距離を走行してしまう。
「ややこしいな」
しばらくしてからようやくタカシが呟いた。それでも言い方には独り言みたいなニュアンスが含まれていたから誰もそれに続かなかった。またしばらく沈黙していた。現れた青年たちもタカシのせっかくの呟きを無視して、前を見ている。
車は走り続ける。かなり以前から、対向車は一台もない。
「ややこしくないかな」
タカシは決意し、今度は語りかける感じで言った。
「ちょっと」
トモコがとめた。
「やめなよ」
だが、とめられても、かまわず、
「今、増えましたね」
と言う。後部座席に出現したほうの青年に向かってはっきりと。
「はい?」
青年は言った。
タカシはそれから、助手席に出現したほうの青年にも話しかける。
「増えましたよね?」
ゴロウは、会話も気になるし、加わりたいが、この山道には、いのししもいるし、むささびもいるし、まあむささびは勝手によけてくれるからいいんだけど、とにかく運転に、相当の注意を払う必要があったので、黙っていた。
助手席に出現したほうの青年はゆっくりふりむいて、言う。
「えっと、今ですよね」
「そうですよ」
タカシはいらいらしている。
「はい。増えました」
「四人から五人になったっての、分かりますけど、思ってたのと、なんか違うし」
すると助手席の青年はまた前に向きなおり、沈黙した。もううしろをふり返ろうとしない。
後部座席に出現したほうの青年も黙りこくっていて、助手席に出現したほうの青年に助けを求めるような視線を注ぐ。しかし助手席に出現したほうの青年はふりむかない。
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