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谷崎に連れられ、僕たちは空き地へ足を踏み入れた。僕の目の前に立ち、にこにこと笑う彼を見ていると、無性に殴りたくなってくる。
「早くしてくれないか?それとも何だ、準備とか必要なのか?」
「いや?必要ないよ。そうだねぇ…、」
彼はそこまで言うとぐるりと空き地を見回す。そして、三メートルほど離れた位置に転がっている空き缶を指さした。
「あれ、見ててよ。」
次の瞬間僕は目を疑った。空き缶が浮いたかと思うと、彼の手元辺りに来てふわふわと浮いている。それどころか僕の周りをくるくると回りだしたではないか。
「えっえっすごっっ、何これ!」
僕は柄にもなく大はしゃぎしてしまったのである。少し経ってから我に返り、回っている缶をがしりと掴んで取った。
「…本当に使えるんだな。」
僕は認めざるを得ないと思った。認めなかったら認めなかったで何故こんなことが起きるのか説明出来なければいけないと思ったからである。生憎僕はその説明を思い浮かばなかった。僕の周りを回っていた缶は紛れもなく普通の空き缶だったからである。
「信じてくれた?」
「うん。じゃ、あれとか持ち上げられる?」
僕は内心心を踊らせて空き地の隅にあるドラム缶を指さした。
「え、無理。」
「は?」
「あんな大きいの無理だよ。」
「え?君、魔法使えるんじゃないの?」
「自分が持てる重さや大きさのものしか動かせないもん。」
彼の言っていることが理解出来ず、さっきの興奮がすっと冷める。
「…待て、魔法ってこう…もっと便利なものじゃないのか?」
「便利、ではないね。」
「じゃああれか?自分の部屋の片付けとかそういった時に役に立つ程度か?」
「いや、全く。だって連続して使えないからね。」
「は?」
さっきまでの興奮はどこへやら。
僕は取り敢えず近くのベンチに谷崎を引っ張って行くことにしたのである。
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