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それは僕たち二人の息が初めて合った瞬間だった。
「何なんだよ、これ…」
僕たちの目の前には割れたトイレの窓のガラスが散らばっていた。そのガラスの破片の中央には野球ボールが堂々と転がっていた。呆然とする僕の耳に慌てた野球部の人達の声が入る。おそらく彼らの誰かが誤って割ってしまったのだろう。
問題はここからである。
「なんの音だ!」
既に足音と声が聞こえる。
そう、先生が来る。
別にこの場にいても構わないだろうが、何となく気まずい。確実にここの後片付けは僕たちに一任されるであろう。今日はなんて厄日なんだ。
その時、谷崎が僕ににやりと笑ってみせたのである。何を考えているのか。正直当てにならない。
「何があった?」
考えをめぐらしているうちにゲームオーバーとなってしまった。トイレの入口から確実に見える位置に割れた破片とボールは散らばっている。僕は肩を竦めて口を開こうとした。
「何もありませんよ、先生。」
僕が話す前に谷崎がそう答えたのである。
馬鹿か、こいつは。目の前に破片があるだろ。野球部の奴らを庇うにしても無理がありすぎる。
「そうか、確かに何もなさそうだな。」
僕は耳を疑った。どう見ても見える位置に残骸があると言うのに、何を言ってるんだこのおっさんは。
先生が去った後も訳が分からず、僕は眉をひそめていた。
「少し魔法を使ったんだよ。」
僕の疑問に答えるようにそう言った谷崎を僕はまじまじと見つめたのである。
「おまえ……、」
僕は真顔でこう言った。
「…本当に大丈夫か?」
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