人の話を聞かない彼女と頷いてばかりのさとーくん

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人の話を聞かない彼女と頷いてばかりのさとーくん

 パリン、とガラスの割れる音が耳の奥に突き刺さっているようだ。  実際にはガラスのコップを投げつけたあの人の怒鳴り声の方が大きい音だったろうに、脳が記憶を改ざんしているのだろうか。それとも意味のなさない言葉の羅列を覚えることを拒否したのだろうか。  いずれにしてもガラスのコップは僕の耳の奥で砕け続けている。何度も何度も、飽くることなく。  僕に静寂は訪れない。   ***  この日、僕が目を覚まして最初に考えたことは彼女と別れようということだった。  寝込んでいるから「しばらく家には来ないように」と連絡をしていたのに、ピンポンピンポンと呼び鈴を鳴らされて、スマホもなり続けているのだから、ついそう考えるのもしょうがないだろう。  熱でだるさを訴える体を引きずりながら玄関へと赴けば、ビニールの買い物袋を手にした彼女が立っている。心配そうな顔色ではなくいたって笑顔だ。 「来ないでって、言ったでしょ」 「ご飯を作ったら帰るよ」  息を切らしながらの忠告もさらりと流し、スニーカーをちゃっちゃと脱いでわが家に上がり込んでくる彼女は、本当に人の話を聞かない。     
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