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「俺からの餞別。これは原液だから、使う時は何かで薄めてね。きっと、気分が良くなるよ」
言って神楽から離れた珀は、軽い足取りで泡沫と泡影の元へと歩いていく。
「お楽しみの所申し訳ないんですけど、急ぎの用事が有るんで失礼しますね。また明日来ますから」
「──……待て……っ」
顔を上げた泡沫は、朱に染まった唇で珀を呼び止めた。
「あの薬、もう買って来んな」
「……アレですか」
鞄の中を手で探りながら、珀は視線だけを神楽に送る。
「泡沫さん、気に入ったって言ってませんでした?」
「……アレの所為で、こうなったんだ。店の奴らに売るのは、止めろ」
「分かりました。今持ってる分で最後ですから、これは泡沫さんが自分で楽しんで下さい」
鞄から取り出した三つの小瓶を、珀は泡影の上着のポケットに押し込んだ。
「これの代金は要りませんよ」
最後にそう残して、足早に珀は去って行った。
それを見届け、赤く汚れた口元を袖で適当に拭った泡沫は泡影の肩を押す。
幾らか泡沫の顔色は良くなったが、表情は曇ったまま。
「アイツの身形整えて、部屋を用意してやれ。躾はそれからだ」
「……畏まりました」
「終わったら、部屋に来い」
徐に手を伸ばした泡沫は、泡影の上着から珀が入れた小瓶を取り出す。
透明の液体が揺れるそれを忌々し気に見詰め、立ち尽くす神楽に一瞥もくれる事無く部屋から出て行った。
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