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「バァカ。俺が好きなのは『金髪』と『碧眼の女』だ。全然違うじゃねぇか」
「そんな事言われても……禁止事項の所為で、人間探すの本当に大変なんですよ? なのに泡沫さん人間が良いって言うから……」
「下らねぇ。あんなもん一々気にしてられっかよ」
「あー……ソレなんですけど……」
鼻先であしらうような泡沫の態度に、珀の顔色が変わった。
「違反者の取締、かなり厳しいらしいですよ。俺が贔屓にしてる店の御客さん、人間を出してるのが議会にバレて連行されちゃったって聞きましたし。買ってきた俺が言うのも何ですけど、泡沫さんも気を付けて下さいよ。牢獄入れられたらそうそう出て来れないですし……泡沫さん混血だから酷い事されないかって心配ですよ」
「そう言うのを余計な世話っつーんだ。てめぇは俺の言う通りに『商品』買ってくりゃあいいんだよ」
「泡沫さん居なくなったら、この店だけじゃなく、伍番街自体に悪影響出ますよ……。ねぇ、泡影さん」
扉の脇に立っている泡影へと振り返った珀は、苦笑いで泡影に話を振る。
「私は、泡沫様に付き従い、お仕えし、お護りするだけです」
「はー、相変わらずの泡沫さん贔屓……」
言いながら碧眼の彼に歩み寄った珀は、彼の手を戒める枷を外してやった。
「じゃあ、君は今日からここで働いてね。泡沫さんって案外優しいから、前より良い暮らしが出来るよ。死なない程度に頑張ってね」
優しい言葉と同時にあっさりと告げられる──死の可能性。
闇市場で売られた人間の末路は、ヴァンパイアの糧。
ヴァンパイアにその生き血を与えるだけの存在。
闇市場に連れて来られた瞬間から彼の運命は決まっていたが、いざ直面すると恐怖に躰が震える。
目の前に居るのは、自分とそう変わらないようにも見えるが、人間ではない。
自分を、人間を喰い物とするヴァンパイア。
なのに、何故だろう。
恐怖の対象でしかない筈なのに、煌めく銀色の双眸に凝視められると、何か別の感情が心を取り巻き出す。
精魂込めて作り上げられた人形のように整った容姿が、現実感を薄れさせているのだろうか。
複雑な感情に戸惑った彼は、自分を見詰める泡沫から顔を背けた。
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