秘事の夜

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 決して広くない室内は三基の燭台に灯された蝋燭とオイルランプの明かりに照らし出されている。  揺蕩う炎に映し出される泡沫の姿は、その名が指し示すように、儚く消え去ってしまいそうだ。  部屋の調度品は、焔が腰掛ける椅子が一脚と、大きな寝台。  そして、小さなテーブルと箪笥が置かれているだけの簡素なものだ。  奥に有る扉は簡易的なものではあるが浴室に繋がっている。  明らかに秘め事の為だけに用意された部屋だと視て取れるそこに、焔は些か落ち着かない様子だ。  こういった遊びに慣れていない事が、いとも簡単に見抜けてしまう。  そんな彼の目的は、唯一つ──泡沫だった。  咳払いをしてから改めて言葉を口にする焔は、疑わしい程真っ直ぐな視線を泡沫に向ける。 「──こちらへ、来てはくれないか? 君の全てを保障しよう」  何の前置きも無く、不躾に突き付けられる言葉。 『こちら』とは、焔の傍、ではない。  その言葉を焔が本気で言っているのかと思うと、泡沫は今直ぐにでも彼を追い返したい気持ちに駆られる。  だが、感情に任せて動いては駄目だ。  自身の心を落ち着かせる為に、泡沫はわざとらしく溜息を吐く。  その溜息を焔は否定と受け取ったのだろう。  椅子の肘掛けに手を突き、その身を乗り出してきた。 「それが駄目ならせめて、一度でいい。浅緋(うすきひ)に会ってはくれないか?」  浅緋──その名を出せば、泡沫が折れるとでも思っているのだろうか。  否、彼の逆鱗に触れるだけだ。
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