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「お疲れ様でーす」
ノックと共に男の人が入ってきた。
「あ、猪熊君」
「後藤! お前もメンバー?」
入ってきたのは二課のセールス、猪熊君だった。私と同い年で職場ではムードメーカー的存在の彼。くるくると丸い大きな瞳に、ニカと笑うと白い歯が並ぶ大きな口。身長はそんなに高く無いけれど、明るくて活動的。地元のフットサルチームにも所属してるって聞いた。
うんと頷くと「やったな」と言う。
「やったって何が?」
猪熊君は新條さんの隣に腰掛けて、机の上にどん、と手帳を置いた。
「面白いから」
ねぇ、新條さんと隣に同意を求める。
「ああ。大変だけど面白い。……面白いって、遊ぶってことじゃないぞ」
またしても本気なのか冗談なのか分からない新條さんの回答に、私たち二人は「分かってますよ」と声を揃えた。新條さんは目をパチパチと瞬かせ言葉を続ける。
「メンバーに選ばれて良かったと言えるプロジェクトにするつもりだ。二人とも、協力頼むぞ」
「はい!」
猪熊君の元気な返事が小さな会議室に響いた。私は黙って俯く。
(だから、変化はいらないんだけど)
本音は喉の奥に飲み込んで顔を上げた。すると私も同意したと解釈したらしい新條さんは満足気に頷く。
「このフェアは絶対に成功させよう!」
「はい!」
(うう、この体育会系な感じ。苦手だなぁ)
セールスとの温度差を改めて感じたところで、再び会議室のドアが開いた。
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