あなたと平穏な毎日を

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 新條さんは低い声で「聞いてなかったのか?」と続けた。私は肩を竦める。 「はい。相田さんが行けば分かるからって」  その相田さんは一通メールを送ってから来ると言っていた。新條さんは「そう」と小さく返事をして作業に戻った。そして手を動かしながら話し始める。 「今回のゴールデンウィークは十連休だろう?」 「そうですね。ショールームは通常営業なんであんまり実感がないんですけど」 「大きな連休だからこそ、上層部(うえ)は力を入れている。このフェアは来期一番のプロジェクトなんだ」  スクリーンに投影された画面が細かく揺れている。新條さんが几帳面に傾きを修正しているのだ。 「初めてがそんな大層なプロジェクトだなんて気が重い……」  はあとため息を吐いて入り口近くの席に腰掛けた。新條さんは調整を終えると画面を消して斜向かいに腰掛ける。 「気は重いかもしれないが、大プロジェクトほどやりきったときの達成感はデカイぞ」 「達成感ですか」 「そう。良い経験になるし」  私は顔の前で手を振った。
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