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「いえいえ。私は起伏のない平和な毎日が続けばそれで」
変化はなるべく避けて通りたい。不自由なく生活できるお給料が貰えればそれでいい。
新條さんはふんと鼻を鳴らした。
「起伏がないだなんてつまらないな。平坦ってことだぞ? それじゃあ自分だって成長しない」
「今更成長だなんて」
「誰も背が伸びるなんて言ってない」
「分かってますよ、それくらい」
本気とも冗談ともつかない言葉に、そのまま真っ直ぐ返事をする。表情が変わらないところを見ると本気で身長とか言っていたのだろうか?
(変な人)
新條さんは片手で顔を覆うようにして眼鏡のブリッジを押し上げた。
「君は、所謂さとり世代って奴か?」
「そういう風に一括りにされるのは好きじゃありません」
ばっさり言い切ると新條さんは目を丸めて「すまない」と謝った。私はボールペンを持ち上げ、カチカチと芯を出したり引っ込めたりする。
「確かに海外旅行とか、ブランドものとか、インスタ映えだとか、そんなキラキラしてて面倒臭そうなものには全く興味ありませんけど」
新條さんは片眉を吊り上げた。
「じゃあ趣味は何だ? ああ、勿論、話したく無ければ話す必要はないけど」
私は平安貴族な顔を見つめて唇を尖らせる。
「笑ったりしないなら言いますけど」
「何だ? 笑われるようなことが趣味なのか?」
「……履歴書には書けません」
新條さんは興味をひかれたようで「それは気になるな」と少し前のめりになった。
「…………」
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