かわって

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 お礼を言うのも忘れてお願いして、それからはみんなでノートを探した。  まだ教室に残っていたクラスメイトに、荷物の中に私のノートが紛れ込んでいないか聞いて回る。 でも、誰も持っていなかった。それじゃあ校庭だ、と数人で探し回る。  それでも、ノートはみつからなかった。  暗くなるにつれて、友達も諦めムードになってくる。習いごとや約束があるから、と申し訳なさそうに帰った子もいた。  手伝ってくれてありがとう、見送って、また探して。  あちこち散々見て回って、とうとう完全下校のチャイムが鳴る。 「もう、帰らなきゃ」  最後まで付き合ってくれていた友達が口を開く。  一緒に帰ろ。ノートはしょうがないよ。  明るく言ってくれているのは分かった。けれど、わたしは、お父さんが帰ってくる家に帰るのも、お父さんが帰ってくる夜になるのも怖くて、うなずくこともできなかった。 「ランドセル、教室に置いてきちゃったから。とりに行くから、先に、帰っていいよ」  俯いて、ぼそぼそ。そう? と、友達は心配そうにわたしを覗き込むから、うん、と笑って見せた。ちゃんと笑って見えたかは、自分では分からない。 「じゃあ……先に帰るね。ばいばい」  友達は近くに置いていたランドセルを背負って、振り向く。 「また明日」 「うん」  もう日が暮れる。校庭を横切っていく友達の影法師も、近づいてくる夜に紛れてしまいそうだ。  教室まで戻って、のろのろとランドセルを背負う。無性に重かった。廊下を歩いて、階段を降りて。最初の踊り場で、足が止まった。  怒られる。帰りたくない。  階段の一番上でうずくまった。暗くて不気味だ。でも、怒ったお父さんよりは怖くない。
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