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しばらく、そのまま、腕の中に顔をうずめていた。
ふ、と。誰かが後ろに立った気配がした。
ぼんやりしていたから、あれ?と顔を上げかける。そのとき、思い出した。
階段の噂。
長い間、踊り場にとどまっていると、かわってさんが出る。
昔、階段の掃除当番を押しつけられた子が、踊り場から足を滑らせて階段から落ちて死んでしまった。その子の幽霊が、当番を代わって欲しくて残り続けている。そんな話だ。
かわってさんは必ず後ろに現れる。現れたら、振り返ってはいけない。
かわって、と、声をかけられる前に、そこから逃げ出さないといけない。
そうしなければ、かわってさんに入れ替わられてしまう。
襟首から氷水を入れられたみたいにびくりと身体が跳ねて、それから震え出した。
ランドセルの金具が、かちかちと細かく鳴る。頭の中にまで響くと思ったら、奥歯もがちがちと震えていた。
気配は消えない。
怖くて目に涙が滲んだ。ああ、でも。
怒られて叩かれてないぶん、今の怖いの方が少しだけ、まし。
か、と喉が引きつる。
かわって。
そう、声を絞り出した。
怒られたくない。叩かれたくない。
かわって。
俯いてぼろぼろ泣きながら、何度もかわってを繰り返す。
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