ニライ橋・カナイ橋

2/35
前へ
/35ページ
次へ
 『今年こそ遊びに行く』と年賀状に何度書いたことだろう。北海道にある小さな高校を卒業して以来、なかなか集まる機会がなかった。私は国外を転々とし、最終的には東京に落ち着いたが、桃は北京(ペキン)、月斗は台北(タイペイ)。北海道に残ったのは音楽教師の亜矢だけ、とはいえ彼女も毎年のように転勤があり、今は札幌に住み近郊の町へ通っている。  旅が楽しみかというと、そうでもない。同棲中の彼氏に沖縄旅行の話が持ち上がっている、と告げたところ、 「5年ぶりでしょ? いいなあ、休み取って行きなよ。海とか入れるのかな?」  と羨ましがった。私自身はこの『沖縄集合』にどこか、親戚の集まりめいた「顔を出すべき」という義務感を感じる。  冷たいだろうか?  職を転々としているせいで、私にはまとまったお金がない。時給で働いているから連休をとれば月収は下がる。「いいなぁ」と羨ましがられる要素は、実は乏しい。  ああ、ここはどうしてこんなに暑いんだろう? 暖房をつけているとしか思えない室温に少し苛立ちながらトイレに寄る。そこで愛用していたネックレスまで切れてしまった。  ぷつん、と切れた鎖は、どちらの端を見ても壊れたようすはなく、元凶となった金色の鎖のひとかけらは、排水溝にながれてしまったみたいだ。  ネックレスが無くなったことで、不安と憂鬱が増した。  月斗は台湾でカフェとセレクトショップの経営をしており、昔から着こなしにうるさい。  のっぺりと飾り気のない私の服と、少しゆるみ始めた三十路半ばの体形に言及するに違いない。     
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加