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『気まま』であることと、『無計画』であることは違う。午後の便で那覇空港に着き、ホテルにチェックインしてから首里城へ向かったが、閉場時間を過ぎてしまった。
それでもいい、とその時は思った。
そのまま、目的も持たずただ南国の空気を吸って帰るだけの旅で終わったなら、それでよかったのだ。
首里城が観られないと知った私はガイドブックをめくり、古くから残る石畳を見に行くことにした。石畳の道は、300mほどの坂になっており、現在も地元の人たちが使っている。坂の上から眺めた那覇の街並みが、じんと孤独な胸を打った。
オレンジ色の瓦屋根の家の間にブーゲンビリアの木が勢いよく伸びていた。他にも名の知らぬ南国の植物が、建築物の隙間からたくさん顔をのぞかせていた。薔薇色に暮れかけた空の下、街を飲み込んでいく夕闇の青が次第に濃くなるなか、首里城に行かなくてよかった、とさえ思った。寄り道帰りの小学生の一群に、「こんにちは」とあいさつされて、いかにも旅人らしく機嫌よく応えた。
ふらふらと遺跡のありそうな小路をたどっていると、大きな木の茂る場所に出た。すでに空は色を失いかけ、残光の中、見上げる木の葉のシルエットが重なり合っていた。視線を地上に降ろすと、緑は黒に溶けかけている。
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