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「俺、夕食は親族と食べることになってるけど、夜8時以降は空いてますか? 星がすごく綺麗に見えるところがあるんで、よかったら乗せていきますよ。車でしか行けないけど、ぜひ見てほしいから」
「体力が残っていたら」
私がそう答えると、電話番号を教えてくれた。
親族との食事は県庁の近くなので、携帯を鳴らしてくれればホテルの近くまで迎えに行く、と言った。
話しぶりから、無理に誘おうとしている訳ではなさそうだった。ホテルの名前も聞かれなかった。ただ、その星空の美しさは地元でも有名で、平日の夜でもカップルの車が集まっている、と言い添えたのが印象的だった。
バス停で降ろしてもらう時に、彼の服装を眺めた。グレーのハーフパンツに黒のTシャツという姿は確かに簡易の喪服に見えなくもなかった。
その日の宿は、古びたビジネスホテルだった。
夕食のあと、私は彼を呼んだ。数時間のうちに疑う気持ちは薄れ、電話に出て欲しいとすら思った。
地元の人が、観光客をからかっただけかもしれない、という不安の方が大きくなっていた。
電話は繋がり、ざわめきが彼の声の後ろで聞こえた。
彼は15分ほどでホテルの前に車を付けてくれ、私を助手席に載せると夜道を走った。
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