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モノレールの乗り場を前に、ふう、とついた溜息が、自分で思っていたのとは違って少し驚く。
ラベルの無い古い段ボール箱を、午後遅い時間に開けてしまったときみたいに。
億劫なのに、どこか安らいでいる。混んでいるのにせかせかしていない旅人たちのせいか、それとも何か花の香りでもしたのか。
辺りを見渡すと、飛行機を降りた時と同じ、白や、クリーム、ピンクの小さな蘭のプランターが並んでいた。
じわじわと強くなる日差しのなか、小奇麗なビジネスホテルのロビーに着いた。
フロントには誰もおらず、自動チェックイン機は省エネモードになっている。
メッセージを送り、低いソファーにかけて待っていると、
「遠山さん」
と月斗のソプラノボイス(というより、男の裏返った声)がおずおずと呼びかけた。
私のことは、昔から寿々音さんと下の名前で呼んでいたはずだ。
会わない時間が長すぎて、なんと呼んでいたのかわからなくなったのか、と訝ったが、すぐ後ろから走ってくる桃を見て、桃の呼び方に合わせているのだ、とわかった。
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