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強風のおかげで髪がくしゃくしゃになったところへ、
「寿々音さんのその服、いいね」
と月斗が目を細めながら、私が身に着けていた予備のブラウスとスカートの組み合わせを褒めた。
「そうかな」
はにかみながら、来た道を戻る。
少し前を歩く亜矢が桃に、これから行く沖縄そばの店にはメニューが2種類しかない、とまた熱弁をふるっている。
あと数時間後には、みんなバラバラに飛行機に乗って、それぞれの家に帰る。
私は羽田空港の手荷物受取り場で、彼氏に頼まれた紅いもタルトがベルトコンベヤーに載って出てくるのを待つ。
それでもいい。
私たちは最初から、天国に暮らしているようなものなのだ。
あてどない毎日は、どこかで結ばれ、数珠つなぎになり、きちんと意味を成している。
ちっぽけな私たちには見ることも適わないけれど、時間も物理も関係のない場所で、オーロラ色のネックレスになり、壮大な神様の胸元を幾重にも彩っているんじゃないだろうか。
名前のつけられない出来事も、欠かせない鎖のひとかけらになって、そこに連なり、つながっている。
「そろそろ行こう」
亜矢が呼ぶ。
蝶々の写真を撮っていた桃と月斗が、ごめんごめんと謝りながらこちらへ駆け戻ってくる。
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