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秀才タイプの桃は昔から生真面目で、月斗以外はみんな名字に『さん』を付けて呼んでいる。月斗だけ呼び捨てなのは、自分の名字が女っぽいから下の名前で呼び捨てにしてくれ、と昔から本人がみんなに言い含めていたからだ。
桃のすぐ後ろには亜矢がいる。うわーっと立ち上がり、思わず駆け寄った。
「久しぶり!」
「お久しぶりです」
桃は、はにかんで、もじもじしている。けれど瞳が面白そうにこちらを見ていて、それは昔よく、面白い本や小説のタイトルを披露するときの顔にそっくりだった。相手はどうかな、と伺っているときの顔。
仲が良かった分、こうして時間と距離を隔てて会うことに、戸惑いを感じるのは自分だけじゃないらしい、そう気づいてレースの目隠しが取れた。
亜矢が横から勢いよく私に抱きつく。
「寿々音さぁん、会いたかったよー! 嬉しいよー! 本物だ」
と頬をつねる。亜矢が寿々音さぁん、と呼ぶ時、英語圏の人が無理に日本語をしゃべっているようなイントネーションになる。す、と、ず、の間に小さな「っ」が入るのだ。「スッズゥネサーン」!
「いたた! 痛いよ、亜矢」
「聞いて、寿々音、ガイドブックに載ってたところが、やっていなくて」
「そうなの? で、どこで食べたの?」
「マクドナルド」
沖縄には至る所にハンバーガーショップがある、という。
「おいしかったよ」
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