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と桃がにこにこと褒めた。昔ならそう思っても言わなかったと思う。桃が高校を卒業したあとに身に着けた社交性、ながらく北京で外国人として暮らす中で身に着けたものだ。でもそれが心地良かった。桃の中の何かを曲げてそんな風に言っているわけではなく、桃の心がその花の色合いを見て、思った通りにぽん、と跳ね返したように感じたから。
ひめゆりの塔、と聞いていたから、私たちは見上げるものを想像していたけれど、それは石板に近かった。塔の前の洞窟のなかで、たくさんの人が亡くなったことが、何を読まなくてもわかるような気がした。
献花台には、すでに花束が積み上げられていた。昨日からあるにしては、まだ瑞々しい。朝早く団体の参拝客が訪れたのかもしれない。日課のようにお参りする地元の人もいるだろう。
花束の山を見るまで、売られている花が最初から萎れているのは、昨日の売れ残りなのかと思った。でも、あまりに鮮度のいい花だと、置いた途端に萎れていくのが如実にわかる。だから、最初から少し萎れたものを売っているのでは、と思った。時間の流れが、そんな風にあまりにも早く、抗えないものであることを、参拝者に感じさせたくない為に。あの花売りの人たちの無意識なのか、ここを管理するもっと別の誰かの意志なのか。
石碑と洞窟を見て、
「怖いね」
と、言い合う私たちはすっかり学生の気持ちに戻っていた。大人になっても私たちは手を合わせたり石碑を読むことしかできない。
元来た道の右側に木々に囲まれた柵があり、そこを覗き込むともっと大きな洞窟が真横に伸びていた。
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