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白っぽくごつごつしているそこは、負傷した人たちの治療を行う、『病棟』として使われた場所、と説明が書いてある。
暑い陽射しの中、痛みを訴える人の声がこの中から聴こえていたのだろう。泣き声や笑い声が聞こえた日もあったろうか。
寒気がするような気持ちと、つい何年か前、葬儀屋のスタッフをしたときに出会った女性の死を思いだした。
傍らの亜矢に、なんかさ、と話し出してしまう。
「仕事でね。40代半ばの女性のお式があったの。ずっと親と暮らしていて、ひきこもりだった。ある日、親が買い物から帰ったら、冷蔵庫の前で倒れていたんだって。すごく……なんていうの、太ってる人で。救急車で運ばれてそのまま。棺には立派なプロレスの写真集やら、解説者の本や、グッズがぎっしり入ってた。プロレスファンだったみたいで」
幸せや不幸の定義は難しい、と思って出た言葉だったけど、ともすれば「戦時中の悲劇の少女たちに比べ、親の金で好きに生きた女もいたのに」と解釈されかねない。
けれど亜矢は声を低くし、
「ふうん。その人も、閉じ込められたような気がしていたのかもね」
と言った。戻りがけに同じ土産物屋を通る。握りこぶしほどの陶製シーサーがとぼけた表情でずらりと並んでいた。土産物としてこれをもらったら、一体どうすればよいのだろう。
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