霜柱

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 匡輔(きょうすけ)はここ数年の顕著な体の変化に、疲労と加齢を痛感していた。学生の頃はスポーツに多趣味でよく身体を動かしていたし、高校を卒業して社会に出てからは力仕事に就き、体力にはずっと自信があった。その恵まれた体格と体力が近年までそれを感じさせなかったのだが、最近は他人事だった老いという現象を次々と目の当たりにするようになった。よく考えれば、30を過ぎると疲れが抜けるまでにかなりの時間を要したかもしれない。40を過ぎてからは、回復しない疲れを上着のように常に纏うようになった。今年で43になり、代謝も落ちたのか、従来と同じ生活習慣では体重の維持も難しい。  重い瞼を少し開けると、明け始めた朝の日射しをカーテンの向こう側に感じた。冬の晴天、窓の外の景色を思い浮かべる。積もった雪が朝日を反射して輝き、目が痛くなるほどの眩しさで匡輔を責め立てる。思わず掛け布団を頭から被った。この朝日を浴びながら通勤していた去年の冬が、ひどく昔のようで懐かしい。あの頃は毎朝5時半に家を出て、人より早くオレンジ色の朝日を浴び、会社へ続く雪の山道に車を走らせた。あのときの自分が、今の姿を想像するはずもない。一日中紙の束を穴が開くほど見ても答えはなく、結局は断られるために電話をして、不採用通知を受け取るために面接を受けていた。つまり、社会から否定され続けている。今日も職探しの一日を始めなくてはならない。何をやっているのかと考え出すと、頭の先からつま先まで自問の渦に飲み込まれそうだ。そうなると、きっと立ち上がれなくなることも直感している。匡輔は狭いところへ吸い込まれて行きそうな思考を止めて、思い留まる。朝がもうそこに来ている。目を開けた世界から、布団を被って逃げている場合ではなかった。匡輔は習慣を失わないために、不純物をずっしり纏った身体をゆっくりと起こした。ベッドから立ち上がる時に、腰や膝の関節が軋み、古傷が鈍く痛んだ。こんな痛みさえも纏わりつくようになった。大黒柱が情けないなと心中で繰り返した。
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