真面目過ぎる私が結婚したいので<後編>

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 梅島駅に着いた。  私は今一度彼に申告する。  「ありがとうございました。ここまでで結構です。後は一人で歩けますので。通い慣れた道ですので」  改札から出なければ、彼のここまでの電車賃はかからない。だからここまでで帰ってもらうのが一番いい。  「ここから何分歩くんですか?」  「十分と少しです」  「わかりました。行きましょう」  「いえあの、結構ですから」  恐縮に恐縮を重ねてみたが無駄な抵抗で、今日三度目の彼の左手が私の元へとやってきた。私の右手首に。そして私は導かれていく。その先に梅島駅の改札があり、駅の出口があり、ちょっとだけ駅前の商店街があって、暗い小道が続く。私のアパートはその先にある。さっきまで降っていた雨は上がっていた。  ここを右です。ここを左です。暗い夜道に私の道案内の声が響く。それ以外の会話は無かった。だから私はなるべく目を瞑っていようと思った。目を瞑って、彼の左手を感じる。彼の左手のスマートさ、スムーズさを感じ取る。なんて上手なんだろう。と、私は改めて思った。彼の道案内。彼の左手。私は普通の人より歩くのが遅い。時間がかかる。でも急がない。焦らない。手を抜かない。  「着きました。ここが私のアパートです」  「そうですか。よかった」  「あとは自分で行けますので」  「何階ですか?」  「二階です」  「じゃ階段上がりましょう」  四度目の彼の左手が来て、私たちはアパートの階段を上がった。203号室。ここが私の部屋だ。
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