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「ありがとうございました。本当に」
「それではこれで」
「あの。お茶でも。お茶でもどうですか」
私は勇気を出してそう言ってみた。
「いえ。大丈夫です」
彼の回答に逡巡は無かった。
それは私を嫌がっているのか。それとも、遠慮なのか。もしくは、この後用事があるのか。彼の返事の理由はその三択だと思ったが、そのうちのどれなのか伺い知れない。
「あの。お礼がしたいのです。お名前を教えていただけませんか」
「ジュンペイと言います。タイラジュンペイ」
「ジュンペイさん。ありがとうございました。お住所を教えていただけますか」
「大丈夫ですよ。お礼なんか」
そう言われてしまった。この理由は二択だ。遠慮しているか、私に住所を知られたくないか。ああ。そうだよね。この人には彼女がいて、私から何かお礼の品物が届いたりしたら迷惑になってしまう。すなわち、理由は二つ目。私に住所を知られたくないのだ。そう。私はこんなふうに考える。これが私。この考え方が、いつもの私。
そこまで考えて、何かお礼になるものは、と急いで考えを巡らす。今すぐに彼に渡せる、お礼になるもの。部屋に何があったかな。お茶菓子か、何か。
「ちょっとだけ、ここで待っててもらえませんか」
「いえいえ、大丈夫ですよ。お礼なんか」
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