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いた!
改札の向こう側。草色のTシャツ!
「ジュンペイさん」
叫んでいた。
よくこんな声が出たものだ。我ながら。私は自分で自分が発した叫び声に驚いていた。
でも。
そのお陰で。
振り向いた。振り向いてくれた。彼が振り向いてくれた。
伝わったのだ。
私の声。
「ジュンペイさん」
もう一度大声が出た。手を振る。改札の向こう側にいる彼に向かって、私は私の存在を知らせなければならない。
「ジュンペイさん」
もう一度。両腕を大きく掲げ、振る。
「どうしたんですか」
ジュンペイさん。驚いた顔。改札の向こう側。
私は初めて、正常な視力でジュンペイさんの顔を見た。
彼の目が見開かれている。
一重の目。濃い眉。白い顔。細い顎。
若い。すごく若い。二十代。前半では。大学生とか。
しかしそんなことに構ってはいられない。
「お礼を」
そこで私は気付く。ジュンペイさんへのお礼はのりたまであって、それは私の右手の先にあり、今私の頭上で大きく振られている。
「こ、これ」
ジュンペイさんが改札まで来てくれる。
「わざわざすみません」
そう言った。びっくり顔のまま。
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