真面目過ぎる私が結婚したいので<前編>

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 私は足が悪い。右足の足首が曲がっていて、まっすぐに歩くことができない。それは先天性のもので、生まれた時から三十六年を経た今でも、私の足はその状態のままである。そこが普通の人と違う所だ。そういうのをコンプレックスというのだろう。確かにそうなのかも知れない。でも私はあんまりそうは思わない。これが私のデフォルト。普通の状態なんだ。  私が座っている時は皆気付かない。立ち上がっても、ほとんど気付かない。気付くのは歩く時だ。私が歩くと、皆の雰囲気が変わる。私を見る目が変わる。この人可哀想に、という目になる。憐みの目に代わる。そして人は私に対して何か気遣いをしてあげなければ、と思うようになるのだ。私はそれが嫌だった。気遣いなんかいらない。私は歩けるし、痛みを感じている訳でもない。私は普通だ。座っている時と変わらない。これが私だ。普通の私だ。ちょっと歩く姿が人と違うだけだ。ちょっとびっこを引いて見えるだけだ。それだけだ。  母はとにかくがんばりなさいと言った。幼い頃から。たぶん母は、足にハンデを背負った私を強く育てたかったんだろうと思う。負けないで、というのが母の口癖だった。だから私はがんばった。体育の時間の陸上は苦手だったけれど、水泳は得意になった。背泳ぎの選手で、水泳部の部長をやったくらいだ。体育以外の科目は何のハンデもない。私は外遊びが得意でない分、家で勉強した。よい大学に入って、東京の一部上場企業に就職した。母はさぞかし鼻が高かったろう。数年前までは。  優秀な娘が良い大学へ行き、良い会社に就職した。鼻が高い。さあ次は結婚だ。世の母親はすべからくそう思うだろう。その気持ちはわかる。私もそう思う。しかし。先立つものがない。その昔クリスマスケーキと言われた25歳を悠々と過ごし、唯一私にアプローチをくれた彼氏と自然消滅した二十代をあっという間に乗り越え、まさか私が独身のまま35歳になるなんてねえ、というのが全く冗談ではなくなり、36歳の年が明けた。
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