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私は。
おかしくなってしまったんじゃないかと思った。
こんなふうになったのは初めてだったから。
昨日私は、ジュンペイさんに親切にしてもらった。
親切に家まで手を引いて送ってもらった。
その感触が今でも私の右手首に残っている。
ありありと残っている。
今もジュンペイさんがここにいる。
ここにいるんだ。
ほんとうに。
おかしくなっちゃったんじゃないか。私は。
ただ単に、彼は困っている人を助けただけだ。
私は困っていて、助けられただけだ。
ただ単に。
人として、彼は優しかった。
人として優しかっただけだ。
それだけだ。
もう会うことはない。
それだけだ。
何度もそう考えてみた。
だけど、私の右手首とその先にいるジュンペイさんは去らなかった。
まだいる。
そこにいる。
ええい。と私は思った。
ええい。いいや。
ジュンペイさんの感触を楽しんだっていいじゃん。
もう二度と会わないんなら。
ジュンペイさんの思いやりを味わったっていいじゃん。
もう会えないんなら。
私は開き直った。
開き直るしかなかった。
右手首の先のジュンペイさん。
ずっとそこにいる。
ずっとそこにいて、私を見てる。
笑顔。
振り切ろうにも振り切れない。
思い出にならない。
思い出なんかじゃない。
目を瞑るとそこにいるんだ。
ほんとうにいるんだ。
この右手首の先に彼が。
しっかりと。
私の手を掴んで。
ジュンペイさん。
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