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「本当にごめんなさい」
何度も謝った。
純平さんは何度も謝った。
わかった。わかったわよ。それはわかった。でも。でもどうしたの。どうしてこんなにずぶ濡れで。どうしてここに来たの。どうしたの。
「ごめんなさい本当に」
震えている。細い身体が震えている。
寒い? 寒いの? どうしよう。
バスタオル。
とにかく私はバスタオルを持ってきた。濡れた身体を拭かなきゃ。
「あの、本当にすみません」
わかった。わかったわよ。だから身体を拭いて。これで身体を拭いて。
純平さんは身体を拭いた。ずぶ濡れになった青いシャツの上から。でも駄目だ。そんなことでは温まらない。冷たいままだ。身体が冷たいまま。これでは駄目だ。風邪をひいてしまう。
私はバスルームに行った。お湯を出した。お風呂に湯をためる。お風呂に入らなきゃ。こういう時はお風呂に入らなきゃ。
「今お湯入れてるから」と私は言った。
純平さんはまだ謝っている。謝り続けている。
そうしているうちにお湯が入った。うちのお風呂はシステムバスでトイレと共同。湯船が小さいからお湯張りも早いのだ。実は私はトイレと共同じゃないもう少し大き目のお風呂に憧れていた。でも今日初めてうちのシステムバスに感謝した。すぐにお湯が張れたから。
さあ。とにかく。お風呂に入って。温まってきて。
「あの」
消え入りそうな声で純平さんが言った。
「本当にすみません」
わかったわかった。大丈夫。私は半ば強制的にしり込みする純平さんを小さなトイレ共同のバスルームに追い込んだ。扉から出てくる時、「石鹸とシャンプーがそこにあるから使ってね」と申し添えた。
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