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ガタッと音がした。お風呂場の扉が開く音。振り向くと彼がお風呂場から出てくるところだった。大きなオーバーオール。175cmの純平さんが着ても、まだダブダブだった。よかった。ダブダブなジーンズ地のオーバーオールが細身の彼を包んでいた。そしてその中に白いTシャツ。胸にピンクのハートが踊っている。
かわいい。似合ってる。と私は瞬時にそう思った。でも口には出さなかった。こういう発言はどう見ても年長者の上から目線の発言だ。こういう発言は控えよう。きっと、上から目線の発言をされて良い気持ちはしないことだろう。とりわけハタチそこそこの男の子は。私はそう考えた。結構冷静だった。結構冷静に相手の気持ちと立場を想像することができていた。私はそんな自分に安堵した。
「服、着れましたか」
なるべくさりげなくそう言ってみた。きちんと敬語を使う。たとえ彼が年下であっても。随分と年下であっても。
「はい。ありがとうございます」
純平さんはそう言った。さっきより少しだけ声に元気が含まれている気がする。よかった。
「そこに座ってください」
私の部屋は六畳一間のワンルームなので、シングルベッドと机と小テーブルとタンスしかない。一人暮らしの私にはそれで十分。私の部屋。私のお城。私の部屋には椅子が無い。だから私はテーブルとベッドの間にお座布団を敷いた。純平さんはそこに座る。すごすごと座る。体育座り。ちょっと笑えてきたけれど、勿論笑わない。私は笑ったりなんかしない。純平さんを笑ったりなんかしない。
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