83人が本棚に入れています
本棚に追加
「お腹空いてないですか? 私夕ご飯食べるので、一緒に食べますか?」
もうすぐ夜の十時になろうとしていた。私がここに帰ってきたのが九時過ぎ。その時純平さんはそこにいた。私が帰ってきた時、私の部屋の扉の前に。何時からいたんだろう。何時から待っていたんだろう。きっと、たぶん、夕飯を食べていない筈だ。お腹が空いている筈だ。お腹が空いて、雨に降られて、ずぶ濡れになって、この人は私を待っていたんだ。私の部屋の前で。
「いえあの、大丈夫です」
彼はそう言った。消え入りそうな声で。私はそんな彼をちらっと横目で見た。これは遠慮だ。遠慮に違いない。絶対夕飯食べてない。絶対お腹空いてる。懸けてもいい。
ジャガ芋が煮えて、味噌を投入。湯気がふんわり立ち上がって、味噌のいい匂いが立ち込める。煮立っているジャガ芋たちが言っている。美味しく煮えてるよ~。
「あの」
弱弱しい声が後ろから聞こえている。
「あの、本当にすみませんでした」
また謝っている。
「純平さん、大丈夫です。謝らなくちゃいけないのは私の方。土曜日は本当にすみませんでした。私の不注意で純平さんにご苦労をお掛けしてしまいました」
私はお座布団の上でまだ体育座りをしている純平さんの方を向いてそう言った。なるべく丁寧に、そう言った。
最初のコメントを投稿しよう!