Get Wild <中編>

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 ふうむ。アパートから出てきてお金が無かった。そしたら普通、アパートに帰るのでは?と私は思った。  「僕友達がいなくて、頼る人がいなくて、それでここまで来ました。お金貸してもらおうと思って」  お金。お金というのはさっきの三千円のことか。そんなものはいい。そんなものは貸す。それこそお安い御用だ。それはいいんだ。それはいいんだが。それで彼はどうするというのか。アパートへ帰るのか。国分寺のアパートへ。  「ネカフェに行こうと思ってて」  ネカフェ。ネカフェというのはネットカフェのことか。二十四時間営業の。昔満喫とも呼ばれた、漫画も読めてインターネットもできてシャワーも付いてて小さな小部屋がいっぱいあって、お金と身寄りのない若者が夜を明かしたりするところか。  何故だ。と私は思った。  何故彼は帰らない。  何故彼はそのお金で自分のアパートへ帰らない。  何故彼はわざわざネカフェに行き、国分寺の彼のアパートへ帰らないのか。  ううむ。  私は目の前で小さくなって濡れた長髪を拭き続けている若者を前にし、疑問符を禁じえない。  いやお金はいい。お金は貸す。三千円でも五千円でも貸してあげる。しかしそれで彼はネカフェへ行くという。ネカフェに行って夜を明かすのか。夜を明かして、どうするのか。時間潰しか。何故時間を潰すのか。人からお金を借りてまで、何故時間を潰さなければならないのか。
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