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「お金は貸してあげます」と私は言った。「でもその前に、一緒に晩ご飯を食べませんか。外は雨が降ってますし、急ぎませんよね」
「はい」と純平さんは言った。
「もうしわけないです」恐縮している。消えいってしまうくらい恐縮している。
ご飯が炊きあがってお釜の中でいいかんじに蒸らされている間に、親子丼の親子部分の製作が開始された。私はさっきジャガ芋と共にお味噌汁に投入された玉葱の残り3/4玉を細目に刻み、油を引いたフライパンで炒める。いい匂い。炒め過ぎないのがコツ。そこに親(鳥の胸肉)を投入。少し焦げ目がついたところで絶妙なタイミングで絶妙な成分構成の割下(醤油+砂糖+みりん+日本酒少々)を投入。グツグツと沸騰して味が染みてくる。そこに速やかに溶いた子(生卵三個)を投入。すかさずフライパンに蓋。弱火へ移行。
うむ。いいかんじだ。いい匂い。卵と玉葱の甘い共犯関係。しかも出汁が効いてる。
私は食器棚から丼ぶりを二個取り出した。思えば私は今までこの私の部屋で丼ぶりを二個同時に使ったことなどなかった。しかし私の食器棚には丼ぶりが二個あったのだ。なんという先見性。私はまるで今日という未来を予見したかのように二個の丼ぶりを買い込んで食器棚に常備していたのだ。ビバ何年か前の私。素晴らしき哉先見性。私は私自身を称賛しつつ、その私の先見性の証左である丼ぶり二膳にホカホカの炊き立てご飯をよそい、その上に完成したばかりのアツアツ親子を積載する。トロリと出汁の効いたタレを垂らす。中ぐらいにつゆダク。一方お椀にはジャガ芋のお味噌汁をよそって。薬味の刻み葱を少々。お箸は割り箸で我慢してもらおう。最後に親子の上に七味唐辛子を少々振りかける。あとそれから、冷蔵庫に残されていたキムチを小鉢に付ける。
できた。
できたわよ。
私はお盆に載った親子丼を眺める。
いいわよ。
自信作だわよ。
さすがだわよ。
絶対美味いわよ。
<つづく!>
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