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私は冷蔵庫から缶ビールを出す。勿論コップは二個。
準備は整った。
私はガッシと両腕でお盆を掴み、小テーブルへと向かう。右足を引き摺るけど気にしない。小テーブルの前のお座布団にはまだ髪の毛を乾かしている若者がいる。ドライヤー貸してあげればよかった。でもいい。気にしない。私はまず小テーブルにコップを投下する。そしてそこにビールを投入する。有無を言わせない。有無じゃない。有だ。そこにビールが有り、我々はビールを飲むのだ。二個のコップに二杯のビールが注がれてゆく。なみなみと注がれてゆく。
「はい。乾杯」
「か、乾杯」
コチンとコップがぶつかる。乾杯。再会に。あなたと私の。
私は勢いよく喉を鳴らす。この一口目が好きだ。何と言っても。このビールの一口目。人生の幸せと生きている意味。ここに感じる。ゴク、ゴク。この喉越し。この刺激。ゴク、ゴク。そして。プハー。これだ。これ。幸せ。これが幸せ。これが私の幸せ。純平さんもビールを飲んでくれる。チビチビとだけど。でも飲んでくれる。私に押されるようにしてだけど。でも口に運んでくれる。よし。それでよし。そして。続いて。主役だよ。今日の主役の登場だよ。私はお盆から今日のメインディッシュを投下する。小テーブルの上に投下する。ドン。投下。ほら。きたよきたよ。親子丼。どう? ホッカホカだよ。ウッマウマだよ。親子丼だよ。少し焦げた鶏肉と玉葱を包み込んだフワッフワの卵にホッカホカの出汁が効いた醤油味が湯気を立てている。これは。もうこれは。絶対に。絶対に美味い。美味いに決まっている。これには。もうこれには。勝てない。誰も勝てない。人間である限りにおいて。勝てない。この親子丼には勝てない。絶対に勝てない。絶対に。
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