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純平さん。見つめている。親子丼。目の前に置かれた親子丼。目の前に置かれたホッカホカ。いつの間にか正座。純平さん。正座になってる。正座で相対している。正座で立ち向かおうとしている。親子丼に対して。私の繰り出した必殺の親子丼に対して。さあ。食べて。食べて。食べて。純平さんの左手が割り箸に行く。割り箸を割る。そして左手で割られた割り箸を使って、ほら、やっぱり純平さん左利きだ、アツアツの卵の部分、玉葱も入っていてその下にホッカホカの炊き立てご飯があって出汁の効いた醤油ダレがジューシーにかかっていて、それを、純平さんは箸の上に乗っけて、左手で、お口に運んで。お口に運んで。運んで。
もぐもぐもぐ。
言葉は無かった。
ガッ。
ガッときた。
純平さんの右手がガッと丼ぶりを底から掴み上げた。
ガガガガッ。
掴み上げたと思った次の瞬間。行った。純平さんが行った。左手に持った箸で行った。掻き込んだ。掻き込んだ。次々と掻き込んだ。
ガガガガッ。
目の前に座ってる私なんか目に入らなくなってる。ここがどこかもわからなくなってる。今何をしているかもよくわからなくなってる。純平さんは食べる。親子丼を食べる。右手で丼ぶりを握って食べる。食べる。食べる。私はちょっとあっけにとられて、その後少し笑えてきた。純平さん。かわいい。とっても。うふふ。でも笑わない。私は笑わない。純平さんのことを笑ったりなんかしない。ガガガガ。食べてる。純平さん。食べてる。ね、美味しいでしょう? すごく美味しいでしょう? 私の作る親子丼。絶品でしょう?
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