Get Wild <中編>

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 「ごちそうさまでした」  純平さんは言った。それが私達の食事中の会話の二言目だった。  丼ぶりを置き、箸を置いた。  また正座になっていた。  そのまま、純平さんは下を向いていた。  何も言わなかった。  ただ俯いている。  何も言わない。  下を向いている。  私も、何を言ったらいいのかわからなかった。  沈黙。  気まずい雰囲気。  クスン。  鼻をすすった。  純平さんが鼻をすすった。  純平さん?  泣いているの?  クスン。  こ、これは。  泣いている。  純平さんが泣いている。  そんなに美味しかったのか、と、ちょっと思った。  泣くほど美味しかったのか、と。  でも違う。  これは違う。  きっと違う。  涙が頬を伝っている。  次々に流れる。  止まらない。  鼻をすする音が嗚咽に変わった。  辛そうだ。  こらえきれない、というかんじだ。  この人は泣くのをこらえきれないんだ。  こらえきれずに泣いているんだ。  どうしよう、と私は思った。  こういう場合はどうしたらいいんだろう。
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