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「弾き納め」
「 ? 」
中庭のサンダルを突っ掛けて庭にでた。
「なんで?東京でも弾いたらエエやん」
ママの背中に言うた。
ママは指を止めて
「もう弾かへん・・・
これはパパへのラブコールやから」
うわあ・・・子供相手に何言うてんの・・・
ママは鍵盤をポロポロ叩きながら
こっちは向かへん。
「パパとは東京の音大の同級生やった。
パパ、ああ見えてもバイオリンでは
なかなか有望やったよ」
「へえ・・・」
「卒業したら結婚して一緒に
留学しようって約束して・・・」
「へえ・・・」
「でも、アカンかった・・・
パパのお父さんと兄さんが
事故で急に亡くなって、
パパが会社を継ぐことになって・・・」
「それと結婚は別ちゃうの?」
「その頃パパの会社、大変でね、
資金繰りのために銀行の娘さんと
結婚したの」
「・・・へえ・・・ママ、捨てられたんや」
「捨てたはチャウなあ、
キチンとお別れしたよ
『別々に頑張ろう』って」
「じゃあ、なんで私おるの?」
「何年かして偶然、バッタリ、会うた」
「ふ~~ん・・・で、」
“オメカケさん“、と言いかけて
「ルール違反な交際になったわけやね」
言葉は選んだ。
「そうやね、ルール違反やね。
パパはもう結婚して
男の子さんもいてはったんやから」
・・・兄さん・・・おるんや・・・
「それでも会わんとおれんかった。
栞奈、アンタがお腹におるって
判ったとき、迷わんかったわ。
嬉しかった、ホンマに!」
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