1

5/15
前へ
/15ページ
次へ
それから数分走って、タクシーは止まった。 「ここだよ。実はおれもここの常連なの」  そうなんですか、と僕は会釈して料金を支払った。  本当に理容室だった。 「シザーハウス石倉……、苗字は一致してるから間違いないな」  大きな家だ。  店舗兼自宅といった感じで、だが建物自体はとても古く感じる。  手の平の汗が気持ち悪いまま、僕は店のドアを押した。 「こ、こんにちは」 「はい、いらっしゃいませ!」  ものすごく元気な中年女性が、客の顔をタオルで拭いながら応えた。  この人が石倉麗子なのか?  見たところとても父さんの好みとはかけ離れているような、ちょっと太っているし、ちょっとオバサンだし、これが不倫相手ならなんだか残念な……、おいなにを考えているんだ僕は、と、心臓に言葉がぐるぐる巻きついてしまう。 「あのう、石倉麗子さんという方を探しているのですが」
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加