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それから数分走って、タクシーは止まった。
「ここだよ。実はおれもここの常連なの」
そうなんですか、と僕は会釈して料金を支払った。
本当に理容室だった。
「シザーハウス石倉……、苗字は一致してるから間違いないな」
大きな家だ。
店舗兼自宅といった感じで、だが建物自体はとても古く感じる。
手の平の汗が気持ち悪いまま、僕は店のドアを押した。
「こ、こんにちは」
「はい、いらっしゃいませ!」
ものすごく元気な中年女性が、客の顔をタオルで拭いながら応えた。
この人が石倉麗子なのか?
見たところとても父さんの好みとはかけ離れているような、ちょっと太っているし、ちょっとオバサンだし、これが不倫相手ならなんだか残念な……、おいなにを考えているんだ僕は、と、心臓に言葉がぐるぐる巻きついてしまう。
「あのう、石倉麗子さんという方を探しているのですが」
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