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そして、そんな向上心ありありな私が現在、最も目を光らせているのが――。
「なぁ、友達だろ?」
「う、うん。でも、昨日も――」
「は?」
「あ……うう……き、昨日」
「は?」
――〝虐め〟である。
本来であれば次の授業の準備の為一度職員室に戻る予定だったのだが、偶々聞こえてきた男子トイレからの声に私の〝虐めセンサー〟が引っかかった。
この声は確か、二年の遠藤だな。相手の子は……誰だ?
ある程度目ぼしい人物を頭の中に浮かべながら、私は勢いよく男子トイレに駆け込んだ。傍を通った女子生徒に「シノちゃん場所間違えてるよ!」と言われたが、今は無視ッ!
「コラ! 遠藤! またやってんのか!?」
「げっ!? 東雲! またお前かよ!?」
颯爽と登場した私は、驚きに目を見開いている遠藤にずかずかと迫っていき拳骨をお見舞いした。案外これ、やった方も痛いの分かってる?
「呼び捨ては止めろといつも言ってるだろ。東雲先生だ、せ・ん・せ・い! リピートアフターミー」
「うっぜー……」
またこいつは。
私の眉がピクリと動き、遠藤の頬が引き攣った。
彼らいじめっ子たちには分かり易くお仕置きする為、態と前もって何かしらの合図を出すようにしている。遠藤――短髪を茶色く染め、左耳の赤いピアスと着崩した制服がトレードマークの悪ガキ代表――相手にはこうして眉を動かすようにしているのだ。
「うざいとは何だうざいとはー。お前、今から生徒指導室行確定だからな」
「は!? 嘘だろ! 次ゆきちゃんの授業なんだけど!」
私と同時期に入って来た新任教師だ。新村雪乃。私の一個下。因みに胸がでかく生徒達から人気が高い。私と違って!
「知るか! いいから来い」
イラッとした私は遠藤のネクタイ(うちの高校はブレザー)を掴み上げて男子トイレから引っ張り出す。気分は散歩を嫌がる犬を連れている感じだな。
締まる締まる、と喚く遠藤を無視し、男子トイレから出た私は一度背後に振り返った。こいつに気を取られてしまったが、問題は虐められている子のケアだ。後で事情とかも聴かないとな。
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