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青空の下で舞う行方知らずの粉雪。白息の霞の向こうに消えていく。
ちぐはぐな冬空を見上げていた僕は、霞にも、雪にも隠す事のできない背中を見つめた。
見ていたのがバレたのか、背中がそっぽを向いて、寒さに赤らんだ顔が振り返る。
A「ねぇ、これ美味しいよ! 買ってよかったね!」
一口齧られたパンを示して笑う相手。
僕は素直に頷いた。
B「そうだね。君の笑顔が見れたよ」
A「恥ずかしい事を言うなぁ」
口で言う割に、照れる素振りすらない。
少しムッとなった僕は、折角だからと言ってみた。
B「君が好きなんだけど」
止まらなかった足が四本、進むのをやめた。
ようやっと意趣返しができた。と、満足する間もなく、少女は先程と変わらない幸せそうな顔で応えた。
A「私もきみの笑顔が大好きだよ」
こうしていつも勝てない。頭が熱くなるのが手に取るより分かる。隠そうと手で隠しても、耳まで火照っているのだから粉雪だけでは誤魔化しようもない。うまく帽子で隠れてくれていればいいが、相手の表情を見るに――手遅れらしい。
B「ずるいぞ」
A「きみこそ」
同じ様に耳を赤らめた相手は、大きな二口めを齧り付いた。
随分豪快なひと口だ。鼻に赤いソースが付いている。
僕は肩をすくめて、いつもの様に手持ちのハンカチでそれを拭ってやった。
A「私はきみが好きだよ」
B「そうだね。僕もだ」
笑い声がどちらからともなく溢れ出た。
舞い散る雪が太陽の光に反射して、いつもの景色が輝いて見えた。
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