田中香葉子

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 わたしが田中香葉子と出会ったのは一年前、メールを送ったことがきっかけでした。  田中香葉子を選んだ理由はネット上で書き込んだコメント、写真を見て決めました。容姿は穏やかそうな女性で教師をしており、今は休職中であること。自殺願望であること、を仄めかす言葉が並び、彼女が登録しているマッチングアプリを利用して、玲央の個人情報を勝手に使用し、何度かやり取りをしました。彼女の心に響く言葉を選び、送り続けたことで、彼女をこの家までつれてくることが出来ました。  田中香葉子は最初は驚きました。わたしが仕組んだことに腹を立てた様子を見せましたが、玲央と出会うと本当にいた人間だとわかると頬を赤くし、言葉を交わすのをわたしは見ていました。  玲央は金持ちで、跡取り息子であること、整った顔立ちには心惹かれるものがあるでしょう。玲央も結婚の話が出てもおかしくない年にはなっていたので、恋愛感情があったのか、本当のところは分かりませんが、婚約は早かったです。  幸せのように感じられる結婚ではありましたが、彼女の子供問題が頭を悩ませていました。夜は結婚してもわたしといることが多く、彼女がわたしを睨むことが多くありました。そして、彼女は人に隠れて酒を飲む日が続きました。  ある日、わたしは彼女に提案しました。もう、いっそのこと生きるのを辞めるはどうでしょうか、と。わたしが代わりに香葉子になって生きてあげると。彼女は驚きましたが、うなずきました。  わたしはこれ以上、大事な体を傷つけることなく済んでよかった、とその時は思いました。  そのあとは、博士の技術のお陰で、香葉子の意思は亡くなってしまいましたが、香葉子の体にわたしを取り入れてわたしが代わりになって生きることになりました。香葉子の脊髄にわたしの基盤を取り込み、体の中の電気信号を使い、まるで生きた人間のようになりました。  コルクの体は隠しました。その時はもしも、必要な時に戻れるように、と思いましたので…  玲央は最初は嘆きました。しかし、わたしは彼の癒し方を知っています。彼を慰めて、香葉子の出来なかった愛を手にすることができた…そう…思ってたのです。
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