読み切り/ベタで駆け足な始まりの話。

3/100
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ
 少女は凡ミスに軽く舌打ちを響かせつつ、眼鏡を外して、古風な魔女風トンガリ帽子のつばでレンズの皮脂を拭き取り、装着した。  すると視界が明瞭になり、見慣れた店舗内の風景が視覚情報として飛び込んできた。  広さは約10畳ほど。こぢんまりした店内の壁棚には、他ギルドの冒険者が倒したモンスターの体組織片(そざい)や、中古武具、日用品、あからさまにパチモンくせぇ伝説のアイテムなどが所狭しと並べられている。  どれも、この店の店主がフリーマーケット端末で入手した品だ。  …そう、ここは、所属団員たった4名による弱小ギルド・「ポチッターズのよろず転売屋」である。  ギルドと提携を結んだ業者から品物を買い付け、販売を行っているのではなく、ポチッターズ団長兼店主が個人的に購入(ポチった)した様々なアイテムを、店主が提示する価格で販売している店だ。  表の立て看板やのれん、レジにも「転売屋」と大きく書かれているものの、この国、マプトス=レムを運営するギルド母体、国政から正式な許可を得て営業を行っている。  所属ギルド名、団員人数営業内容と業務時間を明記した書類・取り扱い商品の種類と値段表の提出、店舗への立ち入り調査など、わりと時間をかけて厳正な審査が行われ、書類提出から約2ヶ月後、申請が受理されたのだった。  ポチッターズが堂々と営業を開始してから、はや3年。経営はすぐさま軌道に乗り、業績はうなぎ登り…になることもなく、店内では閑古鳥がよく鳴いていた。  クラシカルなデザインの魔女風トンガリ帽子&少し露出度の高いワンピースドレスに、パッとしないデザインのシルバーフレーム眼鏡をかけた、目付きの悪い少女、ロスマリネ=ヴァレンタインが思わずレジカウンターで居眠りしてしまうぐらいには暇なのだ。 「…」  ロスマリネは、左側に流した前髪を留めているバレッタに触れて、壁に掛けてある電波時計を見た。  時刻は14時26分…約30分近く眠っていたらしい。ロスマリネは、正面から顔を覗き込んでくる、見た目だけは歳上っぽい、プロポーションの良い金髪ロングヘアの、背が高い女性に話しかけた。 「ごめん、寝ていたわ。品物が盗まれていないか、すぐ確認するわね」  ロスマリネは血相を変えて、陳列してある品物の情報が登録されたスマホ大の端末を手に、レジ脇の通路を通って店内に出た。  まずは出入り口に近い場所から確認する。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!