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店から出て来た女はひと目も気にせずむしゃむしゃとその場でパンを頬張りながら足早に去っていく。驚いたことに皆がそうしている。何かに取り憑かれたように一心不乱にパンを貪り食う様は不気味でたまらない。
まさか姉さんも……。聡明で大人しいリゼが次々パンを飲み込む様子を想像してロイは身震いした。
少しの間店の前でリゼを探したものの一向に姿が見えないため、ロイは近くを見て回ることにした。急ぎ足で店の裏手の方に向かうと、路地の先に見慣れた後ろ姿を見つけた。すぐに駆け寄る。
「……そうで、はい……うふふ……」
リゼは何やら話している。誰かいるのか?しかしもうすぐ目の前にリゼは居るのに、辺りにはリゼ以外誰も居ない。
「姉さん?」
「あはは、何言ってるんですか、もう」
ロイは目を疑った。リゼは誰もいない場所に向かってペラペラと楽しそうに話し続けていたのだ。ゾクリと寒気がする。
「姉さん!姉さん!!」
「……あらぁ?ロイ?何でここに?」
ロイの大きな声にようやく振り返ったリゼは、首を傾げた。手には食べかけのパン。ミス・ウォーズリーの商品だ。
「何でじゃないよ!何してるんだよ!」
「何ってほら、ね?」
リゼは頬を染め、ちらりと誰もいない空間を横目で見て笑った。楽しそうなリゼとは対照的に、ロイは恐ろしさと憤りで握り締めた拳が震えるのを感じていた。
徐ろにパンを頬張ったリゼは、もぐもぐと咀嚼して飲み込んでから言った。
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